蛇口が破損してミニ噴水状態に

まだわたしが学生だった頃、下宿のぼろアパートで水トラブルが起きたことがあります。そこは本当に築何十年なのかもわからないくらいのボロいアパートだったのですが、とにかく家賃が安かったので、貧乏学生にとっては非常にありがたい住居だったのです。
六畳一間の部屋には当然トイレもお風呂場もないため、基本的に水のトラブルとは無縁だったのですが、悲劇は冬のある朝に起こったのです。

その日の朝起きて、寒さに震えながらお湯を沸かそうと蛇口をひねったとき、なんだか妙な感触がありました。そのあと水が出てしばらくすると、蛇口の本来水が出るべき場所以外からも、スゴイ勢いで水が噴き出したのです。最初は何が起きているのか分からず、ただただ水が噴き出す場所を手で押さえていたのですが、いっこうに収まる気配がありません。そうかこれは蛇口を閉めれば良いのかと思い、とっさに取っ手をひねったのですが、ひねれどひねれど取っては回り続けたのです。

これはもう、なにかが折れているのか、取れているのか、壊れているか、とにかくどうすることも出来ないことがよく分かりました。そうこうする間にも、蛇口を抑えている手の隙間からは水が噴き出し続け、まさにちょっとした噴水状態になっていました。冬の寒い朝です。手も冷え切ってきて限界も近づいていました。そこで考えたのは、そもそもこの蛇口の元栓のようなものはどこにあるのだろうかということでした。

実家の蛇口ならば、シンクの下の開き戸を開けたあたりのS字管付近についていますが、ここのアパートにはそもそも個別の元栓などなさそうです。そこでふと思い出したのですが、部屋の入口、薄い扉を出たすぐのところにある共同便所のわきに、洗面台と呼べる場所があります。おそらくその下の開き戸だろうと目星を付けたわたしは、置いてあったヤカンを逆さにして壊れた蛇口にスッポリとかぶせました。部屋の中には綺麗な虹がかかっていました。